ページの先頭へ

                                            トップページに戻る
少年リスト  映画(邦題)リスト  国別(原題)リスト  年代順リスト

Röövlirahnu Martin マルティンと魔法の猫

エストニア映画 (2005)

エストニア映画で初めての紹介。都会から田舎に引っ越してきた少年が主役の、完全に子供向けのコメディ映画。もう1本のDVD 『Väikelinna detektiivid ja valge daami saladus(子供探偵団とホワイト・レディの謎)』(2014)も、同様に子供向きなので、エストニア映画にはこうした側面があるのかも。一方、『Georgica(ジョルジカ)』(1998)と、『Hüvasti, NSVL(さよなら、ソ連)』(2020)は、ソ連の圧政を描いた厳しい映画で、こちらは旧ソ連の共和国らしい大人向きの映画。この映画には、ある意味、エストニアらしさがない。それは、「映画で、その国を知ろう」という人にとっては残念な話で、どこのヨーロッパの国の映画と言っても通る。ただの、可愛らしいお伽噺。それは、主役のマルティンと、相手役のマルタが、典型的な美少年と美少女で、結末も、最高にハッピーだからかも。

マルティンが田舎の学校に転校してきてまだ1ヶ月、成績もパッとせず、友達もできないでいる。ただ、町で一番の金持ちのシングルマザーのスポイル坊主ケヴィンからは、何かとちょっかいを出されるが、負けん気のマルティンはついつい反抗し、終業式の途中にケヴィンと不公平な屋根登りをさせられ、校長の前の窓に頭から落下して大目玉を喰らう。腹を立てたマルティンが、巨岩の上に自分で作った簡単なロックハウスに行くと、そこには、いつもと違って変な男が勝手に上がり込んでいて、自分を魔法の猫だと紹介する。彼は、マルティンのいい話し相手となり、マルティンは、好きな女の子マルタがいるのに、学校中で唯一人バイクに乗り、高級ブランドのスニーカーを履いたケヴィンが邪魔をすると訴える。そこで、魔法の猫ことニットラムは、マルティンを連れてマルタの家に行き、ケヴィンのバイクに細工をするが、かえってマルタを危険な目に遭わせ、その責任がマルティンにのしかかる。それでも、マルティンはニットラムの話をもう一度聞き、マルタの父である校長の呼び出し時に、マルタに求婚することにする。しかし、実際にやってみると、堪忍袋の緒が切れた校長によって、マルティンの母に直談判するため自宅まで連れて行かれる。そこで、ニットラムの恋の魔法が効き、校長はマルティンの母に一目惚れ。マルティンの罪など忘れ去られ、校長とマルティンの母、校長の娘のマルタとマルティンは、海でボートに乗って楽しい時間を過ごす。それを妬んだケヴィンは、マルティンが可愛がっている猫〔ニットラムは、他人がいると、猫の姿に戻ってしまう〕を盗ませ、マルティンとマルタはいなくなった猫を探しに出かけ、夜をロックハウスで過ごす。翌日、マルタは早く父と会いたいのに、マルティンは猫探しに固執し、途中で会ったケヴィンと鉄骨製の灯台にどちらが先に登るかで競争する。マルティンは先に登ったが、マルタは、途中であきらめたケヴィンのバイクで先に帰ってしまう。がっかりしたマルティンに対し、再び現れたニットラムは、心からマルタに詫びるようアドバイスする。映画は、校長とマリティンの母、マルティンとマルタの2つのカップルが誕生し、ハッピーエンドで終わる。

主演子役のマディス・オリカイネン(Madis Ollikainen)は1992年8月6日生まれ。映画の撮影時期は不明だが、2005年2月24日の公開なので、前年の夏に撮影したとすれば恐らく撮影時12歳。その後は、エストニアで2番目に大きな町タルトゥの大学を卒業し、名門スイス連邦工科大学チューリッヒ校で修士号を取得後、各大学での研究生や技術者を経て、現在、データ・アナリストとして活躍。2015年のエストニアのERRニュースでは、「自然科学の分野で若いエストニア人の勉強と研究を支援するTamkivi自然科学基金の 最初のフェローとなる 将来を嘱望される若き物理学者マディス・オリカイネンへのインタビュー」記事が掲載されているが(右の写真)、その中で、この映画に主演した経験が、「今日のあなたを形成するに当たり、役立ったと思いますか?」と問われると、「今の僕を創るのに大いに役立ったと思います。敢えて言うなら、人は、自分をステップ・アップするあらゆるチャンスをつかむべきだと思います」。そして、この言葉、「One should seize every opportunity to step up」が、この記事の標題になっている。

あらすじ

朝、8時 目覚ましが鳴り、マルティンはベルを止めるとまたウトウト。その頃、シングルマザーの母は、こじんまりとした家の外でマルティンの制服を振るってきれいにしている(1枚目の写真)。一方、金持ちのシングルマザーの立派な家では、母親が息子のケヴィンに赤いジャンパーを着せて、「気に入った?」と訊く。「まあまあ、かな」。「とっても いいわよ」。「通知表の素行に、校長の赤点がつくかも」。「なら、大丈夫。手は打ってあるわ」。次に母親が見せたのは上等のスニーカー。ジャンパーは気に入らなかったが、スニーカーには大喜び。カメラは、再びマルティンの家に。机の上で、絵が好きなマルティンは、1枚のペン画を描いている(1枚目の写真)。そこに描かれているのは、「お前は化け物か人間か?」とバッドを構える校長に対し、怪物のような男が 「死ね、校長」とバッドをかざしている姿。彼は、余程校長が嫌いなのか? 母が、「マルティン、来て」と呼ぶと、映画の最後まで一度も着替えないお気に入りのタンクトップをTシャツの上から着たマルティンが、バケットハットを被り、家から出て行こうとする。「何か、食べて行きなさい」。「時間がないよ」(3枚目の写真)。「制服を着てったら?」。「まさか」。「約束よ。今日は面倒を起こさないこと。終業式の日くらい、おとなしくね」。
  
  
  

マルティンは自転車で出かける。一方、ケヴィンは家の中に置いてあったバイクに乗ってエンジンをかける。甘くて躾のできない母親が、「家の中で乗るなって 何度言わせるの?」と注意しても、「スニーカーありがと、年増さん!」と反省の色もなく出かけ、森の中に入ると、母からもらった赤いジャンパーを脱ぎ捨てる。その後、マルティンが走る場所は、田舎だが、すごくきれいな場所(1枚目の写真、矢印はマルティンと、池に映った上下逆様のマルティン)。このロケ地は、首都タリンの東北東約80キロにあるVihulaという村だが、絵のようにきれい。同じ角度の映像もグーグル・ストリートビューで撮れるのだが、敢えて、マルティンが走った場所が分かるように、少し建物に近づいた場所での映像が2枚目の写真(黄色の点線がマルティンの通った道で、道路ではなく、やっと人が歩ける小道)。そのすぐ後をケヴィンのバイクが追う。普通の道路に入り、やがて2台は並ぶ(3枚目の写真)。すると、意地悪で根性曲がりのケヴィンはバイクを幅寄せして自転車を道路脇に追いやると、足で自転車を蹴ってマルティンを転倒させ、手にケガを負わせる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

学校に先に着いたケヴィンの新しいスニーカーを見て、手下の生徒が 「凄いスニーカーだ! 幾らした?」と訊く。「3000」〔撮影が2004年とすると、当時のクローン/円換算率は1 EEK = 8.7 JPYくらいなので、約26000円〕。その後も、ケヴィンは最悪のボス振りを発揮する。キャンディーを口に入れた生徒を見つけると、3人の阿呆な手下が男の子を上下逆様にして、ポケットのキャンディーを振り落とさせる。そこにケヴィンの母親が登場。校長は 「新しい屋根に感謝します」と寄付金を感謝し、校長に気のある母親は 「構いませんのよ、校長先生。食事に誘って下されば」と誘惑する。「校長先生は止めて下さい。ローランドと」。「ディアナと呼んで。明日は いかが?」。「お昼なら空いていますが、いかがです?」。そこに、マルティンが到着。巧みな自転車さばきを見せ、サッカーで遊んでいる生徒達を見て、「パスして くれよ!」と声をかける。1人がマルティンに向かってボールを蹴ると、マルティンは、自転車で落下点に行き、飛んできたボールを前輪を軸に自転車を回転させて後輪で叩き(1枚目の写真、矢印は飛んで行くボールの方向)、ゴールに入れる〔DVDのメイキングを見たら、ここだけ代役〕。そんなマルティンを、校長の娘マルタが感心して見ている。それを見たケヴィンは、すかさず、「何て、うざい奴なんだ」と貶(けな)すと、マルタは 「素敵だと思うけど」と、正当に評価する。それを聞いたマルティンが笑顔で振り返る(2枚目の写真)。ここで、校長が 「みんな、講堂に集まって」と声をかける。しかし、性根の曲がったケヴィンは、マルティンの自転車を足で止めると、「マルタの気を惹こうとしたな?」と文句をつける。「お前の知ったことか」。「お前、自分がタフ・ガイだと思ってるだろ?」。「足を、折られたいか?」。「何だと? 殴られたいのか?」。「お前が、殴る?」。「強いと思ってるんだろ?」。「お前よりはな。絶対だ」(3枚目の写真)。「じゃあ、賭けるぞ。最初に、旗竿まで登った方が、マルタをとる」。旗竿は、校舎の屋根のてっぺんに立っている。「狂ってるな」。手下の1人が、「マルティンは高所恐怖症だ」と笑う。「怖いものなんかない」。
  
  
  

2人はスタートするが、その時点で手下の1人がマルティンの邪魔をする。そして、一歩遅れて校舎に入るドアまで行くと、残った2人の手下がドアから入らせない。ずるいケヴィンは 階段を駆け上がる。一方、マルティンは、建物の玄関の柱を伝って玄関の屋根に登り、そこから校舎の下部屋根に上がり、そこを端まで歩くと(1枚目の写真)〔歩いているのは本人〕、窓の出っ張りを伝って上部の屋根に登る〔さすがに無理なので、撮影ではロープで引っ張り上げている〕。ケヴィンは屋根裏にイスを積み上げて旗竿近くにある、“屋根に出る穴” を開けようとする。講堂の中では、校長が新しい屋根に感謝し、窓のカーテンを閉めさせて、写真部が撮った屋根の写真を映写し始める。屋根の上では、マルティンがあと2歩で旗竿に触ろうとしていた。すると、いきなり、足の下の蓋が開き、ケヴィンが顔を出したものだから、マルティンはバランスを崩して屋根から滑落する(2枚目の写真)。幸い、旗竿のロープが足に絡まったので、地面までの落下は免れ、足を上にして逆立ち状態で空中にぶら下がるが、それはたまたま停電で中が真っ暗になったため、校長がカーテンを開けた真正面だった(3枚目の写真、矢印)〔突然の停電の原因は、間抜けな老父と、精薄気味の息子の2人組の電気工事屋が、不注意でケーブルを切断したため〕。なお、4枚目の写真は、DVDのメイキングに入っていた、クレーンで吊り下げられたマルティンの一コマ。スタントではないので、子役も大変だ。
  
  
  
  

終業式が終わると、マルティンは校長室に連れて行かれる。「マルティン、君にはどうしていいか分からん」(1枚目の写真)「この学校に1ヶ月もいないのに、他の生徒の1年分よりトラブルが多い。私には、仕事が山ほどある。屋根からバンジー・ジャンプすることまで、監視できん」(2枚目の写真)。「バンジー・ジャンプじゃありません」。「他に 何がある! TVのバカな番組でも見て、真似したんだろう。映画なら何でもできるが、現実の世界では屋根から落ちたら重傷だ」(3枚目の写真)。校長は、マルティンが朝描いていた絵を見て、先に、「『お前は化け物か人間か?』」の部分を読み、次いで、より大きな吹き出しを読むと 「これは、私かな?」と笑う。そして、「絵は描けるようだが、この通知表じゃ、どんな美術学校も入れてくれんぞ。明日、ご両親と一緒に来なさい」と言う。「ママしか、いません」。「じゃあ、ママと一緒にだ。その時まで、通知表は保管しておく」。
  
  
  

校長室を出たマルティンは、マルタが帰って行くのを見て、自転車で追いかけ、額に入れた絵を渡す(1枚目の写真、下の文字は、「マルティン、マルタ」)。「これ、君に」。「私に?」。「どこで手に入れたの?」。「僕が描いた」。「ほんとに? とってもきれいね」。「もし よかったら、もっと描くよ」。「描いて」。「僕の自転車に乗ってかない?」。そこに、お邪魔虫のケヴィンがバイクでやって来て、「マルタ、乗れよ」と言う。マルタは、“憧れの的” のバイクを選び、マルティンには 「また、今度ね」と言い、ケヴィンと一緒に行ってしまう(2枚目の写真)。見送るマルティンの顔は、ケヴィンに対する憎しみでいっぱいだ(3枚目の写真)〔校長に叱られたのも、ケヴィンのせい〕。その時、マルティンのすぐ後ろで鳴き声が聞こえ、茂みの下に1匹の猫がいた。
  
  
  

家に戻ったマルティンに、母は、「どうして 通知表がないの?」と問い質す(1枚目の写真)〔終業式なので、当然、通知表は渡されるはず〕。マルティンは、ナイフをテーブルに突き立てたまま、何も答えない(2枚目の写真)。「その態度は、何なの? 夜勤の仕事は大変なのよ。トラブルばかり起こして、心配かけて。どうしたらいいの? 無謀になるばかり。マルティン! どうしたのよ?」。「僕のせいじゃない!」。「じゃ、誰のせいなの?」。マルティンは立ち上がると、「友達がいないんだ。なぜ、ここに引っ越してきたの?」と言い返して(3枚目の写真)、外に出て行く。
  
  
  

マルティンは手製の弓矢を持つと、背より高い葦が茂る原っぱに行き、矢を射る真似をして遊ぶ。正面には、マルティンが巨岩の上に造ったツリーハウスならぬロックハウスが見える(1枚目の写真)。マルティンが、それをじっと眺めていると(2枚目の写真)、脇で音がし、さっきの猫が茂みの中に駆け込んで行く。マルティンが、猫の消えた茂みに歩み寄ると、突然な変な男がぬっと顔を出す(3枚目の写真)。
  
  
  

マルティンは、そのままロックハウスまで逃げて行き、降ろしてあった縄梯子を登ると(1枚目の写真)、何と上のテラスには、どうやって先回りしたのか、さっきの男がすでに待っていた。「気を楽に。悪意はない」。「誰なんだ?」(2枚目の写真)。「ニットラム、魔法の猫だ」。「何だって?」。「今、言ったじゃないか」。「だけど…」。「魔法の猫は、魔法の悪戯ができる猫だ。ニットラムは吾輩の名前。君のマルティンと同様さ」。「そんな変わった名前の猫、聞いたことがない」。「変わった名前は一杯ある。友達はニッティと呼んでる」。そう言うと、手を差し出し、強制的にマルティンの手を取って握手する(3枚目の写真)。
  
  
  

「何で、岩の上に小屋が?」。マルティンは、その質問には答えず、ポケットから別のペン画を引き出し、「待てよ、これ君なんだ!」と言うと(1枚目の写真)、「僕が、創造したんだ!」と自慢する。「誰も、吾輩を創造しない。吾輩は、前からいる」。「じゃあ、どうして この絵を描いたのかな?」。「簡単さ。魔法で描かせたんだ」。「君に、魔法の能力があるなんて話、信じると思う?」(2枚目の写真)。ニットラムは、猫が怒ったような音を出してマルティンを威嚇すると、「吾輩のしっぽに誓って! 魔法の猫は、魔法ができるんだ!」と強く言う。「落ち着いて、怒らないでよ。今日は、人生 最悪の日だった。明日は、ママと一緒に校長室に呼び出しだ。大好きなマルタは、バカのケヴィンと帰っちゃたし、奴には、新しいスニーカーとバイクがある」。マルティンが1人でブツブツ不満を漏らしていると、小屋の中から木の剣を2本持ち出したニットラムが、「魔法の猫の最高評議会が、君を助けるため吾輩を送り込んだ」と言いながら、剣を振り回し、1本をマルティンに投げてよこす(3枚目の写真)。そして、2人で戦いながら、現況を訊く。「マルタが好きなんだな?」。「そうだけど…」。「しかし、ケヴィンもマルタに惚れてる」。「そうなんだ」。「今日 君は、マルタに意志表示し、ケヴィンに対抗した。後は、計画を実行するだけだ」。「どんな?」。「吾輩が助けてやる。スニーカーとバイクがケヴィンの味方なら、魔法の猫が君の味方だ」。
  
  
  

2人はロックハウスを出てマルタの家〔校長の家でもある〕に向かう。2人が、家を囲む木の柵まで行くと(1枚目の写真)、家の前にはケヴィンのバイクが置いてあり、庭に作られた屋外シャワー室では、布に囲まれた4角の箱の中で校長が歌いながらシャワーを浴びている。それを見たマルティンは、「校長は、ロック・スターのノリだね。誰も見てないと思ってる」と笑う。「校長って?」。「僕らの学校。マルタのパパ。気取り屋で、分からず屋なんだ。僕らを理解しようとしない」。その時、マルティンはバイクに気が付く。「くそ! ケヴィンがいる」。「あれが、凄いバイクか?」。「うん。奴は、バイクとスニーカーを見せびらかしてる。女の子はイチコロさ」。「ヒヨっ子みたいなもんだな」。マルティンが頷く。「エンジンに悪戯してやろう」。そう言うと、ニットラムはバイクまで行くと、赤いコードを1本引き抜く(2枚目の写真、矢印)。その直後、ケヴィンとマルタが家から出て来る。ケヴィンが 「バイクに乗ったことある?」と、マルタに訊く。「ううん、一度も」。「乗れよ、大丈夫」。そして、壊れたバイクにマルタが乗る。マルタが乗ったバイクが走り始める(3枚目の写真)。しかし、途中で、マルタが 「助けて!」と叫ぶ。ケヴィンが 「停めろ!」と叫ぶが、マルタは 「停まらない!」と叫び返す〔赤いコードを抜いたのでブレーキが効かなくなった〕。「助けて!」の声で校長が助けに走る。マルタを乗せたバイクは小屋の中に突っ込んで行き、衝突音とともに小屋が傾く。小屋に駆け寄ったのは、校長とマルティン。マルタが、服は破れても 汚れただけで小屋から出て来ると、校長が 「ありがたい」と言い(4枚目の写真)、「無事だった」と抱き締める。ケヴィンはバイクが心配なので、マルタそっちのけで、「僕の バイクは?」と小屋の中に飛び込んで行く。校長は、マルタを 「そもそも、なぜ、あんな物に乗ったんだ?」と叱るが、その直後、後ろにマルティンがいることに気付く。「マルティン。これも、君の悪戯か?」。マルティンは、自分の足元にいた猫を抱き上げると、「こいつだよ」と言うが、校長にとっては下らない言い訳にしか聞こえない。「明日の朝は、君のママと重大な話し合いが必要だな」と言われてしまう。
  
  
  
  

ロックハウスに戻ったマルティンは、当然のことながら機嫌が悪い。「他人がいると、なぜ、猫の姿になるんだい?」と訊く。「注意をひきたくないからな」。「僕が 困ってたのに、ゴロニャンじゃ助けになってない」。「わざと、やったとでも?」。「もちろんさ」。「いいか、明日、君は校長と会う。だけど、ママさん抜きだ」。「そんなこと、いったい どうやって?」。「まず、ママに魔法をかけて、昼まで眠らせる」。マルティンは信じない。「バイクすら、止められなかったろ」。それを聞いたニットラムは、すかさずマルティンを宙に浮かす。「降ろしてよ、落ちちゃう!」(1枚目の写真)。ニットラムはマルティンをテラスに降ろすと、「魔法ができないなんて、二度と言うな!」と警告した上で、明日の戦略を話して聞かせる。「明日、マルタに求婚に行くんだ」。「『求婚』って、何なの?」。「いいか、君が誰かと結婚したいと思ったら、求婚する。それが、結婚する手順なんだ」。「一緒に住むことから始めるんだと思ってたけど」。「これが切り札なんだ。正式なやり方でプロポーズしたら、校長もきっと感心するぞ」。マルティンは思わず笑う。「僕が、マルタと結婚するんだって?」(2枚目の写真)。「彼女のことが、好きなんだろ?」。「僕たち、結婚するには若すぎると思わない? そんなこと校長に言ったら、放校処分…」(3枚目の写真)。「そうは ならない。明日は、“愛の日” になるだろう。吾輩のしっぽに誓って」。
  
  
  

その日の夜。マルティンの部屋の壁には、2枚のペン画が貼ってある。大きな紙には、マルティンの絵と、その下にマルタとマルティンと書いた2人の小さな絵。小さな紙には、最初のものとは違うニットラムの絵(1枚目の写真)〔このシーンは一瞬なので、ここで “答え” に気付く人は稀であろう〕。雑然とした部屋の一角では、ニットラムが何かを探している。ベッドに横になったマルティンは、「君が存在するって、未だに信じられないんだ。猫と人間が 合体してるなんて、ちょっと変じゃない?」と訊く。「吾輩の国じゃ、普通の人間の方が変なんだ」。「朝早く、ママが帰って来て、部屋をチェックする。僕は、ぐっすり眠ってる。一度くらい、目覚めたまま、ママを待っていたい。でも、できないんだ」(2枚目の写真)。そして、翌朝早く母が夜勤から帰ってくる。そして、マルティンの部屋をチェックに行くが〔マルティンの目覚まし時計は5時20分を指している〕、当然、こんな時間にマルティンが起きているはずがない。ただし、いつもと違ってマルティンの足元に猫が横になっている(3枚目の写真、矢印)。
  
  
  

時計が8時を指し、マルティンが母の寝室のドアに耳を付けて、母が眠っていることを確かめる。それから、食卓の棚を開け、マルティンがKännu Kukk というルビー・レッドのアルコール度数45%のリキュールのビンを棚から取り出す。「飲みかけを、持ってってもいいの?」。「ジュースで、いっぱいにしよう。誰も気にしない。どうせ飲まないし」。ニットラムは4分の1ほど残った酒を捨てさせ、そこに、水とジャムを混ぜて満杯にして キャップを閉める〔封は開いている〕。そして、「求婚するには、ぴったりのワインだな。校長が、ビンを受け取ったら、マルタは 君のものだ」と言う(1枚目の写真)。さらに、「そしたら、持参金の協議に入ればいい」。「それ、何なの?」。「花嫁の親が君に お金を払う。昔からの伝統さ」。「結婚が、そんなに儲かるものだなんて…」。すると、寝室から母の声がする。「マルティン、誰と話してるの?」。「演劇の練習してるんだよ」。ここで、ニットラムは2回指をパチンと叩く。母の欠伸が聞こえる。「これで、もう、ママは大丈夫。君の部屋で、リハーサルしてみよう」。一方、校長の家では、今日の昼食をケヴィンのシングルマザーと取ることになっているので、校長が どのネクタイにするかを選んでいる。マルタが、「パパ、なぜ、ドレス・アップするの?」と訊くと、「今日、重要な会議があるんだ。人格高潔に見えないとな」と嘘を付く。一方のリハーサル。ニットラムが校長役。部屋に入ってきたマルティンに、「昨日のことを、説明しなさい」と命じる。マルティンは、「必要ありません。今日のことを、話しましょう」と言う。「どういう意味だね?」。「今日は マルタに求婚に来ました」(2枚目の写真)。「娘と結婚したいだって? そりゃ嬉しい話だ!」。「このボトルが分かりますか?」。「求婚のワインだ。マルティン、じゃあ君は本気なんだな」。「マルタなら、素敵な伴侶になります。持参金の相談をしましょう。車と、家の半分でどうです?」。「どうぞ、どうぞ。マルタとドライブを楽しんで。私はバイク使うから」(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、本番。マルティンが校長室のドアをノックする。「入って」。入って来たのはマルティン1人。「マルティン、昨日の説明をしなさい」。「必要ありません。今日のことを話しましょう」。「上着の下に 何がいる?」。「かゆいだけです」。「お母さんと、一緒じゃないのか? 今、どこに おられる?」。「病気です」。「そうだろうて。学校に呼び出しがかかると、急に発病する… そんな病気の名前は、何だ? 時間を 無駄にするのは止めよう。家に戻って修理をしないと。幸い、ケヴィンがマルタを世話してる。実に責任感のある少年だ」。「手伝いましょうか?」。「昨日やったみたいに、かね?」。「ちゃんと、きれいにしてみせます」。予想とは全く違う展開だ。校長は、「3」が大半を占める通知表を取り出すと(1枚目の写真)、「自宅で十分反省し、お母さんが良くなったら電話だ。通知表を返す。今度のことで、点は引いてない。楽しい夏休みを」と言い、通知表を机の前に置く。マルティンは通知表を取り、代わりにKännu Kukkのビンを机に置くと、机の前のイスに足を組んで座る。そして、「マルタとの結婚について話しましょう。これは、求婚のワイン。現金と車と家が望みです」(2枚目の写真)と、リハーサルを短縮して要求する。許し難い暴言だと怒った校長は、マルティンの襟をつかんで校舎から出ると、自分の車に連れて行く。その時、昼食の約束でケヴィンの母親が現われるが、校長は、「やあ、今日は会えなくなった。延期しなくては」と謝る(3枚目の写真)。「この子、昨日、屋根から落ちた子?」。「昨日は屋根から落ち、今日は娘に求婚に来おった。できるだけ早く電話するよ」。「今夜8時に、カエル・パブで会うのは、どう?」。「いいよ、賛成」。車を出した校長が、「シート・ベルトだ」と命じると、「できません」。「なぜ、できん?」。マルティンは 「上着に猫がいます」と言いながら猫を取り出して抱く(4枚目の写真)。「なぜ、猫を 連れてるんだ?」。「これ、ニットラムです。こいつが、全部たくらんだんです」。「猫に何ができる。ニャーと鳴く以外に。猫のせいにするな」。
  
  
  
  

家に着いたマルティンは、猫に向かって、「愛の日になると言ったじゃないか。しっぽに誓って」と文句を言うが、猫の姿では返事はない。校長は、ドアではなく、その横の柱をノックする。「夜勤だから、ママは寝てます」。「マルティン、君の言うことは全然信用できん」。今度は、ドアを直接叩く。ドアが開くと、ネグリジェにセーターを羽織り、髪の毛がいつものように後ろで縛ってない母が現われる(1枚目の写真)。すると、魔法にかけられたように 校長の顔が変化する。「私は、マルティンのことで来ました。私は、校長のローランドです」。「知ってます」。「ローランドと呼んで下さい」〔ケヴィンの母親に言ったとの同じ〕。「マリスです。この子が、また何か?」。「誰?」。「マルティンです」。「いいえ、とんでもない。あなたに、お話ししたくて」。「マルティンは いい子です。ちょっと 腕白ですが、十分 目が届かないものですから。父親がいないので」。「承知しています」。「私ったら、こんな所で立ち話を。お入りになって」。「ありがとう」。校長は、マルティンの母に夢中になってしまっている。ここで、マルティンが、「僕も一緒に行くんでしょ?」と尋ねる(2枚目の写真)。「君は 私の家に行き、マルタを助けるといい」。「着替えてから行くのよ」。マルティンとニットラムは校長の家に向かう途中で話し合う。「君が やったの?」。「何を?」。「2人を、恋に落としたろ。このあと どうなるの? 校長に、家に来て欲しくないな」。「吾輩は違うね。彼は いい人間だ。頼りになる」。「魔法を解けよ」。「心配するな。恋の呪文は30分しか効かない」(3枚目の写真)。しかし、校長と母の話は弾む。マルティンの母は、「消防署で夜間勤務についてるの。だから、私 日中は眠ってる。でも、消防士じゃない。配車担当よ。机に座って電話を受けるだけ」と職業について説明する。そして、息子のことも。「マルティンは、ここに 馴染めないでいるんです。今朝も、誰も友達がいないって、不満を言ってました」と話す。「もっと、わが家に来ればいい。一人で子供を育てるのは、大変だ。私もそうなんだ」。これで、2人の境遇が同じだと分かる。「もう5年だ。娘と私だけで」。母は、校長が手に持っているビンを見て、乾杯しようと言い出す。校長:「世の中の、シングル・ペアレントに。寂しさが減って、お互いに友達になれるように」。2人が乾杯して飲むと、中味はジュース。「フルーツ・ジュースなのね」。「それに違いない。結局、求婚のワインなんだ」(4枚目の写真)。「求婚のワインを 持ってらしたの?」。恋の呪文はとっくに解けているのに、2人の仲は良くなるばかり。
  
  
  
  

マルタの部屋では、ケヴィンはタバコを吸い、嫌がられている。一方、校長の家までやってきたマルティンは、ニットラムの、「このスニーカーがなけりゃ、奴は威張れない。金槌と釘を持って来こいよ」と言い、マルティンに長さ10センチはありそうな釘でスニーカーを階段の木に固定させる(1枚目の写真)。マルタの部屋では、ケヴィンが 「目を閉じろよ」と言い。キスしようと顔を近づける。すると、予想して待っていたマルタが、手に持ったクマのぬいぐるみで押し返す。「キスしたこと ないのか?」。「もちろん、あるわ」。「誰と?」。「知ったことじゃないでしょ」。それでも無理にキスしようとするケヴィンを、今度はぬいぐるみで殴る(2枚目の写真、矢印)。「何で、そんなに嫌がるんだ?」。「灰皿みたいに臭いもん」。「もういい、我慢の限界だ。シグリッドのトコに行く。もっと楽しいからな」。ケヴィンが玄関まで来ると、マルティンが待っている。ケヴィンはマルティンを横目で見てスニーカーに足を入れる。そこに、出てきたマルタが、「マルティン、ここで 何してるの?」と訊く。「散らかしたのを、片付けに来たんだ」。ケヴィンは、偉そうに、「ロバみたいに働けよ。奴隷野郎」と言い、猫に戻ったニットラムを見て、「この、バカ猫! ブラシに されたいか? 出てけ! 蹴るぞ!」と言って、蹴ろうとして その場に転倒する(3枚目の写真)。ケヴィンは、大事なスニーカーを傷付けられ、そこにいた2人に向かって、「この、バカどもが。マルティン、覚えてろよ。マルタの足は醜いしな。お前なんか、二度と乗せてやらないぞ」と、捨て台詞を残してバイクで去って行く。その言葉に心を傷つけられたマルタに、マルティンは 「ケヴィンの言ったことなんか、無視するんだ。君の足は、とてもきれいだよ」と慰める(4枚目の写真)。
  
  
  
  

そこに、マルティンの母を乗せた校長の車が到着。校長は、「いい考えがある。みんなで、ボートに乗りに行こう」と、マルタとマルティンに声をかける(1枚目の写真)。校長はマルティンの母と一緒、マルティンとマルタと猫は別のボートに乗る。マルティンは、「学校、好きかい?」とマルタに訊く。「もちろんよ。あなた、違うの?」。「ううん、全然。いつも、失敗ばかりだから」。校長とマルティンの母は、まるで恋人同士のよう。「子供たちが、仲良くしてるって、いいねぇ」と ご機嫌。「こんな素敵な日、ほんとに久しぶり」と母も嬉しさ一杯。その子供達の方は、最初マルティンが一人で漕いでいたが、そのうち、マルタが並んで座り、一緒に漕ぐことに。こちらの方も、より親密になっている(2枚目の写真)。しかし、そのうち、一天にわかにかき曇り、校長は、「雨になるぞ。最初に岸に着いた方に、でっかいチョコ・バーだ!」と叫ぶ。マルティン:「了解!」。マルタ:「ハンディが いるんじゃない?」。父:「なしだ!」。全員がレインコートを羽織る。桟橋に最初に接触したのはマルティンとマルタのボートだったが、校長はズルをして、「ロープを先に縛った方が、勝ちだ!」と言い出すが、結局マルタには負けを認める(3枚目の写真)。
  
  
  

突然降り出した雨は、突然止んで再び晴れる。以前、終業式中に停電を起こした2人組の電気工事屋の横をバイクで通りがかったケヴィンが、「金、欲しくないか?」と声をかける。精薄気味の息子は肩をすくめただけだが、欲張りな老父は、「何だね?」と訊く。「5時までに、あの家から、猫を盗ってきたら100クローン〔870円〕やる。どうだ?」(1枚目の写真)。こんな法外に安い金額でも、老父は「分かった」と言う。校長は、マルティンの母を家まで送って行く。母は、着替えた後、「どうしましょう。これじゃ仕事に間に合わないわ」と言う。「心配しないで。喜んで、運転手になるから」。そして、車に乗せて即出発する。マルタはマルティンの家に残される。マルティンは、マルタにコーヒーを出し、「マルタ、あれは普通の猫じゃないんだ。人間にも変身できるし、魔法も使える」と打ち明ける(2枚目の写真)。「嘘ばっかり」。「ほんとだよ。あいつなんだ、君のパパと、僕のママを… お互い、変な風に見つめてたろ」。「何が言いたいの? パパは、誰とも結婚なんかしないわ」。「ママだってそうさ」。「ねえ、マルティン… 恐ろしい話よね… もし、あなたのママと私のパパが…」。「心配ないって。ニットラムが呪文を解けば、熱が冷めるさ」。一方、町まで母を送ってきた校長は、ケヴィンの母親と来る予定にしていた店の前で車を停めると、「コーヒー、一杯だけでも…」と粘る。「ほんとに、もう時間がぎりぎりなの」。「こんなに早く別れるなんて、残念だな」。「ローランド、会ったばかりで、一日中 一緒だったでしょ。どこか変じゃない?」。「何が変なのかな? 2人の男女が…」。この時、急ブレーキの音がしてランドローバーが停まり、中からケヴィンの母親が降りてくる。「ねえ、ローランド、約束忘れてないわよね?」。「もちろん、覚えてる」。「ディアナ、こちら、マリス。新しく来た子の、お母さんだ。今日、娘に求婚に来た子さ。今から消防署まで お連れする」。「火事なの? それとも、結婚式?」。マルティンの母は早々に退散する。マルティンとマルタが暗くなっても話し合っていると、2人組の電気工事屋が敷地内に侵入し、袋を持った老父が、家の中にいた猫を捕まえる。だから、マルティンが、「魔法の猫だってこと、証明しよう」と言って猫がいつもいる部屋にマルタを連れて行くと、そこにはいない。「猫がいない! まだ 桟橋に いるのかな」。その頃、2人組の電気工事屋は、少額の “お駄賃” と引き換えに、猫の入った袋をケヴィンに渡していた(3枚目の写真、矢印)。ケヴィンは、袋を持って桟橋まで歩いて行くと、ボートのロープを外し、海に押し出してから、袋を投げ込む(4枚目の写真、矢印)。
  
  
  
  

マルティンとマルタは、真っ暗なのに、猫を探しに桟橋まで行ってみる(1枚目の写真)。2人は残ったボートに乗り込み、無謀なことに 真っ暗な海に漕ぎ出す。一方、校長とケヴィンの母親が入った店では、母親が、「私より、彼女の方に興味があったみたいね」と、ずばり訊く。「悪かった。今日は、何だか支離滅裂で」。「なぜなのかしらね?」。「彼女とは、今日会ったばかりなんだ」。ボートの上では、2人が交互に、猫の名前を呼ぶが、結局あきらめざるを得なくなる。もう一度店に戻り、「一日じゃ、恋に落ちないって言いたいわけ?」。「もちろんだとも。だが、あり得るかも? 何て、答えたらいいか…」。「もう、それだけで十分。何が起きたか、言ってあげる。私とデートを約束してから、やんちゃ坊主を、母親の所に連れて行った。そしたら、誰もが夢見るようなことが、あなたに起こった。一目惚れしたのよ。息子の不品行を、注意しに行ったはずが、私とのデートも忘れて、幸せな一日を過ごしたって訳。そこに私が来て、すべては ぶち壊し。でも、あなたは紳士だから、約束を守って私と座ってる。あなたの行為は、二人の女性を侮辱したのよ。事態を解決する方法は、唯一つだけ。彼女に会いに行って、謝りなさい」。校長は、さっそくマルティンの家を訪れる。母は 「来てもらえて良かった。子供たちがいないの」と心配を打ち明ける。その頃、2人はロックハウスにいた。エストニアの緯度は59度と カムチャッカ半島の南端とほぼ同じなので、夏でも夜には12℃くらいまで下がる。そこで、マルティンは寒がるマルタに毛布を被せる。マルタは、「いらっしゃい。一緒の方が、暖かいわ」と、マルティンも毛布の中に入れる(2枚目の写真)。マルティンは、「ケヴィンのこと、好き?」と訊く。「どうかな。初めは良かったけど… でも、なぜ 訊くの?」。「もし僕が、バイクや高価なスニーカーを持ってたら、僕と一緒に乗ってくれる?」。「バイクに乗るのと、スニーカーなんて無関係よ。私が、ケヴィンのバイクに乗ったのは、カッコ良さそうに 見えたから。でも、今は、ウザイわね。今は、あなたの方が、ずっと好きよ」。「ほんとに?」。「ほんとよ」。「ねえ… 君って、とっても可愛いね」(3枚目の写真)。
  
  
  

朝になり、2人は、森の中で猫を探していたが、マルタが、「マルティン、家に戻らないと。パパやママが心配してるわ」と、当然の注意喚起(1枚目の写真)。そこにやって来たのが、2度目のお邪魔虫のケヴィン。「おい、お前たち、どこに行ってたんだ?」と訊く(2枚目の写真、矢印は灯台)〔エストニアは、1940年にソ連に占領され、戦後はソ連の共和国の1つとなったためか、鉄骨と木で出来た安っぽい灯台が、少し前に紹介したロシア映画『父、帰る』に出てきた灯台にそっくり〕。マルタは、「猫を探してたの」と言う。「マルティン、猫は いたのか?」。その言い方が気に食わないので、マルティンはケヴィンを睨む(3枚目の写真)。ケヴィン:「乗れよ、マルタ。家まで送ってやる」。マルタ:「マルティン、もう戻るべきよ」。ケヴィン→マルタ:「来いよ、マルタ」。ケヴィン→マルティン:「お前は、自転車で追って来い。競争するか?」。マルティン:「マルタ、どうか行かないで」。マルタ:「でも、パパたちが心配してるもの」。
  
  
  

マルティンは、この事態を解決しようとして、「しっぽに誓って!」と拳を突き上げる。意味不明の言葉に ケヴィンが 「何だと?」と笑う。マルティンは、マルタに、「マルタ、もし僕が望楼のてっぺんに最初に着いたら、残って、一緒に猫を探してよ。負けたら、ケヴィンと帰れよ」と言い、ケヴィンには 「怖いか?」と訊く。ケヴィンは 「お前とは 違う」とバイクで灯台に向かい、マルティンも自転車で先行する。マルタは、「やめなさいよ! もう、うんざりだわ! バカは やめて! 聞こえたの?」と叫ぶが、2人とも聞く耳を持たない(1枚目の写真)。2人は ほぼ同時に灯台に到着。『父、帰る』と違うのは、ケヴィンが梯子を使ったのに対し、マルティンは大胆にも鉄骨の骨組み自体を登って行ったこと。スピードは、階段より遥かに早く、ケヴィンはどんどん遅れていく(2枚目の写真)。勝ち目がないと悟ったケヴィンは下り始め、マルティンが天辺に着いて万歳した時には(3枚目の写真)、マルタを乗せて校長の家に向かうところだった(4枚目の写真)〔マルタの心配より 猫を優先したマルティンの方が悪い〕
  
  
  
  

家に着いたマルタは、「乗せてくれて、ありがとう」と言うが、ケヴィンが、「待てよ、キスぐらいしろよ」と変なことを言い出すと、「シグリッドとでも、キスしたら? それとも、フラれた? 二度と私に絡まないで。このウザイ、いかれポンチ!」と最大級の罵り言葉をぶつける(1枚目の写真)。「うざいのは お前だ! お前もマルティンもバカ猫も。一緒に舟遊びなんかしやがって」。「『舟遊び』? 何で、あんたが知ってるの?」。「猫を助けてやろうと思ってさ」。マルタは、猫のいなくなったのもすべてケヴィンのせいだと悟り、思いきりケヴィンの頬を叩く。一方、塔の上で、マルティンがふて寝していると(2枚目の写真)、急にニットラムが現われる。「どこに いたんだよ?」。「いろいろと、やることがあってな」。「溺れたかと心配してた」。「魔法の猫が溺れるか?」。ここで、マルティンは失敗を打ち明ける。「ケヴィンと 競争を始めて、マルタを持ってかれた。怒らせちゃったんだ。勝負することを嫌ってたから」(3枚目の写真)。「それも一理あるな。でも、今頃マルタは心配してるぞ」。「まさか」。「吾輩のしっぽに誓って! 彼女は待ってる。謝罪することを忘れるな」。その頃、ケヴィンは家に戻ると、ソファに倒れ込んで泣き始める。母親が、「どうしたの?」と訊くと、「僕は、嫌われ者だ!」と罵るように言う。「ケヴィン、落ち着いて。新しいバイクを買って欲しいの?」。「いらない! 物が あり過ぎるから嫌われるんだ!」。
  
  
  

マルタが家に戻って来ると、中から校長とマルティンの母が飛び出てくる。校長:「マルタ! どこに いたんだ? 大丈夫か?」。「マルティンの猫を探してた」。今度はマルティンの母が、「マルティンは、どこ?」と訊く。「塔のてっぺんよ」(1枚目の写真)。校長、「場所は知ってる」とマルティンの母に言うと、マルタには 「家に入って、暖かくしてなさい」と命じて車に乗り込む。しかし、車が少し動いたところで、自転車と一緒に歩いて来たマルティンと会う。母は、多大な心配をかけたことについて、マルティンを叱るが、校長は、「マルティン、マルタの様子を見てきてくれ」と、1人で家に行かせる。猫を抱いて初めての家に入って行ったマルティンは、ノックしてマルタに 「入っていい?」と訊く。「入って」。マルティンは、猫を床に置き、帽子を取ると、「2つ、言いたいことがある」と、謝り始める。「第一。僕は、ほんとにバカだった。問答無用だ。第二。心から、君に謝りたい」。「それ、本気なの?」。「もちろんだよ。ほんとに、ごめんね」(2枚目の写真)。「高い所には、登っちゃダメよ」。一方、家の外では、校長とマルティンの母が 何事か話し合っている(3枚目の写真)。話しが終わると、校長はマルティンの母の手を引いて 家に向かいながら、「降りて来なさい子供たち。コーヒーとパンケーキにしよう」と大きな声で言う(3枚目の写真)〔結婚することにした、とでも打ち明けるのだろうか?〕
  
  
  

マルティンとマルタは、それを聞いて部屋から出て行く。マルタの部屋の黒板には、ニットラム(NITRAM)と書かれている(1枚目の写真)。カメラがぐるりと回り、反対側の壁にかかった鏡の映像を映す。そこには、鏡で左右逆になった黒板の文字が見える。「マルティン(MARTIN)」。このことから、ニットラムという猫男は、マルティンの “空想の友” で、猫は実在するが、ニットラムはマルティンの空想の中だけで存在していたことが分かる。だから、校長がマルティンの母を一目で好きになったのは、魔法のせいではなく、ただ、本当に好きになっただけだということも。その意味で、映画の中に矛盾はない。ただ、この先、マルティンとマルタはどうなるのであろう? 同じ家に住んで “連れ子同士” になる訳だが、血縁関係はないので結婚は十分可能だ。
  
  

   の先頭に戻る              の先頭に戻る
  エストニア の先頭に戻る         2000年代後半 の先頭に戻る